2011年6月10日金曜日

第11回アジアカルヴァン学会韓国大会報告

Koreaアジア・カルヴァン学会が韓国を会場にして開催されると、なぜか一年で最も寒い時期が選ばれる。前回は、2月であり、今回は1月だった。なぜこの厳寒期を選ぶのかを韓国の学会担当者に尋ねると、韓国では官公庁、教育機関は、3月から1年を始めるので、ちょうどこの時期が休暇にあたり、余裕があるからだという返事であった。それにしても寒い。ニンニクや唐辛子、朝鮮人参といった体温を上げる食材が重宝されるのは良く分かる。

総神(チョンシン)神学校を会場にした3日間の日程は無事に終了し、翌朝6時、極寒のソウルからリムジンバスで仁川(インチョン)空港へ向かった。日本と同じ時刻を採用していても、実際は一時間遅く、まだ5時頃らしい。埃をかぶった窓から右手正面に銀円盤の月が見え隠れしつつ、私たちを空港まで見送ってくれた。
  
この学会を振り返えると、良くアレンジされたスケジュールで次々とプログラムを消化していったという印象である。目玉は国際カルヴァン学会会長のヘルマン・ゼルダホゥイス(オランダ)の講演「21世紀のカルヴァン―過去の成功と現代への適用」であり、彼が主催するREFO500Asiaを紹介することにあった。

講演の要旨はおおよそ次のようであった。「カルヴァンの働きと神学が、いかに近代社会形成に大きな影響を及ぼしたかは、各地で行われた盛んな生誕500年祭の行事を見ても明らかである。しかも特徴的な点は、カルヴァン自身は生涯ジュネーヴに留まり、あまり多くの旅をしなかったが、この地を拠点としてカルヴァンの教えはヨーロッパ、さらに世界へと広がりをもったところにある。それは聖書の御言葉が中心となって広がりをもつような関係に近い。」

こう語って、聖書の御言葉の解釈と神学のもつ重要性、さらに教理の各項目がどのような広がりをもったか、また国家との関わりと、各地の改革者との深い連帯といった、幾つかの要点をかいつまんで、その伝達力、普遍性に光をあてた。そのことは同時に21世紀の神学の連帯と広がりについても新たな可能性を示唆する。

REFO500というプロジェクトは、この講演内容を具体化する企画である。すなわち、カルヴァン生誕五百年祭の年であった2009年を契機に翌年2010年に立ち上げられたグローバルなプロジェクトである。ルターの「95ヶ条の提題」が登場した年を祝う500年祭が2017年に開催されるまでの7年間に様々な活動を通して、宗教改革の広がりを再体験・再実現しようという企画である。「刷新、変化、適用」というフレーズのもとに、オランダを中心にプロテスタント、カトリックも含め、大学や博物館などと提携して、世界的な広がりを目指す。

すでにアメリカの複数の大学、ドイツの教育機関、ジュネーヴ他のヨーロッパの幾つかの地域、南アフリカへと広がり、今回REFO500Asiaという主題のもとにアジア各国の参加を求めている。

活動の内容は、教育や研究の交流・充実、教会と教理の共有、芸術や文化の展示・交流、聖書や言語の理解、資金の充実など多岐に亘り、参加者の自主的な取り組みが期待されている。REFO500とは、いわば多様な人々が行きかう「プラットホーム」、あるいは多くを傘下いれる「大きな傘」のようなシンボルでもある。これについて詳細を知りたい方は、ホームページを開いて欲しい。

ところで私個人としては、この企画が現代のキリスト教を活性化するための、カンフル剤的な役割を担うだろう感じつつも、基本的なスタンスの問題として、一つ気になることがある。すなわち、宗教改革は、もともと横のネットワークを意識して活動を開始したものではなく、聖書を深く読み、解釈して新しい光を獲得した時であった。そもそも中世末期は(カトリック)教会の強大な力が各地に及んでいたのであり、すでにグローバルな世界が広がっていた。そのような状況下で改革者たちがそれぞれの生活の場で聖書を「深く読む」、つまり「下へ掘り下げる」取り組みに励んだ時であった。それが結果として各地へ伝播したのである。宗教改革の広がりを現代に再現しようと意図するなら、まず初めに、未だに解明されていない改革者たちの聖書とその解釈、説教について研究することから開始すべきではないかと考えている。

さて今学会で発表された研究は14であり、日本からの発表は3点であった。久米あつみ氏の発表は「oblivio voluntaria―日本におけるカルヴァン受容のいくつかの型―」と題し、菊地純子氏は「ダビデ―カルヴァンが自身を投影した人―ただ神の選びによって」であり、そして私の「日本におけるカルヴァンの説教」であった。

また会場で学会誌、Calvin in Asian Churches, vol. 3が配布された(裏面参照)。

今回の学会の参加者のうち、日本からは11名で、比較的若い人々が参加してくれたことは幸いなことであった。次回は、台湾で2013年の予定である。新会長には、長く重責を負った韓国のスーヤン・リー牧師が辞し、台湾のヤンエン・チェン教授へバトンが手渡された。

充実しつつも、またたく間に過ぎた3日間を思い出しつつ、海岸も凍りついた仁川空港から成田に到着したら、冬の日差しも暖かく感じられ、なんとなくほっとした。少し遅く我が家への帰途に就いたが、新幹線の窓から今度は黄金色のお盆のような月が正面右手に見える。思わず顔がほころんだ。私たちの忙しい日々の中で、ずっと変わらず見守り続けて下さる存在がある。可視的自然物は、それを精一杯証している小さな一個なのである(詩編第八篇、ローマ1:20)。次回に向けて新たな力が湧いてきた。(野村 信)

(この文章はアジア・カルヴァン学会日本支部ニュースレター『常に新たに』第7号に掲載されています。ニュースレターには、久米あつみ氏、菊地純子氏、豊川修司氏、青木義紀氏(掲載順)の文章が掲載されていますので、ぜひお読みください。ニュースターはここをクリックしてダウンロードしてください。